小さなヒントたち

ターゲットを絞ることは「親切」?小さなお店が選ばれる理由と無理しない差別化

ターゲットを絞ることは「親切」?小さなお店が選ばれる理由と無理しない差別化

ターゲットを絞ることに焦りや怖さを感じる方へ。
実は、絞ることは怖いことでも冷たいことでもありません。
ターゲットを絞ることで無理なく差別化し、「選ばれるお店」へと変化する考え方をご紹介します。

間口を広げて、一人でも多くのお客様に来てもらわなければ……

ターゲットを絞ることは、誰かを切り捨てるようで怖い……

お店や会社を経営していると、こんな風に、選択することの焦りや怖さを感じることがありますよね。

けれど、私はこう考えています。
ターゲットを絞ることは、実は、お客様に対する最高の「親切」なのではないかと。

今回は、何気なく過ごしている日常の疑問から見えてきた、無理をしない「差別化」の本質についてお話しします。

もしあなたが今、「自分たちの強みが見えない」「選ばれる理由を作りたい」と悩んでいるなら、そのヒントは意外なほど身近なところにあるはずです。

息子の「なんで?」から気づいた、2つのスーパーの決定的な違い

「なんで、こっちのスーパーは通路が狭くて、あっちのスーパーは広いの?」

先日、子どもたちと買い物に出かけたときのことです。
息子の何気ない「なんで?」という問いに、私は思わず立ち止まりました。
子ども心に発した疑問が、とても面白く本質を突いた問いだと感じたからです。

活気があり、所せましと商品が並ぶスーパーE。
ゆったりとした空気が流れ、品揃えも幅広いスーパーH。

一見すると、ただの店舗スタイルの違いに思えるかもしれません。
しかし、マーケティングの視点で見れば、そこには「誰を幸せにしたいか」という、お店側の明確な意思が隠されています。

私たちが訪れた2つのスーパーは、実に対照的でした。
そこには、どちらが良い・悪いではなく、明確な「役割の違い」がありました。

通路の狭さは「活気の証」。安さと鮮度で勝負するスーパーE

まず、スーパーE。
ここはいつも活気に溢れ、通路はカートがすれ違うのがやっとというほど狭いです。
棚には商品が所せましと並び、お買い得品が次々と目に飛び込んできます。

従業員の方の元気はつらつな声と、人混みを縫いながら次々にカートへ商品を入れていくお客さまたち。
私は、「熱量」という言葉がぴったりなスーパーだなと感じています。
市場を歩いているような新鮮さと驚きが良さです。

そして、この狭さは「効率よく」「鮮度の良いものを」「安く回転させる」ための戦略です。
「安くて良いものを、活気ある市場のような場所で買いたい」というお客様の期待に、100%の力で応えています。

大きな子ども用カートもスイスイ。ゆとりと利便性を提供するスーパーH

一方で、スーパーH。
こちらは落ち着いた雰囲気で通路も広く、お客さま通しがぶつかることはほとんどありません。
大きな車型の子ども用カートがあり人気です。大きなカートでも安心してスイスイ移動できます。

24時間営業で品揃えも幅広い。
こちらのスーパーには「安心感」という言葉がぴったりです。
他の店では見つけられなかった商品も「あそこに行けばあるかも」と足を運ぶことが多いです。

忙しい日常の中で、少しゆとりを持って買い物をしたい人や、特定のこだわり商品を求める人にとって、この「広さ」と「網羅性」こそが価値になります。
また、夜間に空いていることも大きなメリットです。

「年末年始をしっかり休む」という選択に宿る、お店の意志

特に印象的なのは、スーパーEの年末年始の対応です。
彼らは毎年、動画CMやLINE、店頭ポスターを使って、「従業員の幸せのために、しっかり休みます!」と堂々と宣言しています。

この記事を執筆した直近(2025年の年末)の年末動画では、実際に従業員の方が、前の年の大晦日に早く帰宅することで得ることができた家族時間の体験を嬉しそうに語られていました。
従業員が家族との時間でしっかりと充電することが、結果としてより良い商売、より良いサービスに繋がっていく。
その確固たるスタンスを明確に打ち出す姿勢に、私は一人の顧客として、深い信頼と好感を抱きました。

「誰に届けるか」を決めると、お店のすべてが動き出す

息子の疑問への答えは、シンプルです。
それは、「誰を喜ばせたいか(ターゲット)」が違うから

ターゲットが決まると、お店の「器(ハード面)」だけでなく、そこで提供される「サービス(ソフト面)」のすべてが、ひとつの目的に向かって整い始めます。

なぜ「みんな」を追いかけると、誰にも届かなくなるのか

多くの小さなお店が陥りがちな罠が、「みんなに来てほしい」と願うことです。
しかし、全ての人を満足させようとすると、通路の広さも、価格設定も、品揃えも中途半端になってしまいます。

たとえば、ある町の小さな飲食店を想像してみてください。

「パスタも食べたい、ラーメンも食べたい、ついでにお寿司も置いてほしい」
そんなお客様全員の声に応えようとしたらどうなるでしょうか。

メニューは膨大になり、食材の管理は煩雑になり、店の内装はどの料理にも合わない無難なものになってしまいます。
結果として、お客様の記憶には「なんでも食べられるけれど、これといって特徴のない店」としてしか残りません。

ターゲットを決めないことは、実は「誰のことも特別に大切にしていない」ことと同じになってしまうのです。

通路の広さから営業日まで、すべてはターゲットへの「おもてなし」

スーパーEの「狭い通路」も、スーパーHの「年中無休」も、すべては決めたターゲットに対する彼らなりの「おもてなし」の形です。

もし、スーパーEが「安さと活気」を売りにしながら、通路だけをスーパーHのように広げてしまったら、どうなるでしょうか。

並べられる商品の数は減り、あの市場のような熱気は失われ、ターゲットである「安さと鮮度を求める人」は、「なんだか最近、物足りないな」と感じて離れていってしまうかもしれません。

これは、小さなお店でも全く同じです。

  • 「忙しいママ」がターゲットなら……
    少々お値段が張っても、家事を時短できるお惣菜や、子どもが喜ぶ工夫が価値になります。
  • 「こだわりのある料理好き」がターゲットなら……
    利便性よりも、産地直送の珍しい野菜や、プロが選んだ調味料が並んでいることが喜びになります。

自分たちが「誰を主役にするか」を一度決めてしまえば、お店のレイアウトから、仕入れる商品、そして営業日の設定にいたるまで、迷うことなく「一貫したメッセージ」が生まれるのです。

一貫性が「あなたのお店」を記憶に刻む

この「一貫性」こそが、小さなお店が選ばれるための最も強力な武器になります。
いつも同じメッセージを発し続けることで、「〇〇といえば、あのお店」という旗がお客様の心の中に立ちます。

「安くて新鮮な商品が買いたいなら、スーパーEに行こう」
「夜中にどうしても必要なものがあるなら、スーパーHに行こう」
「大切な人の贈り物なら、あのお店にお願いしよう」

このように、お客様が必要な時に真っ先に思い出し、選ばれる存在になるためには、まず「誰のために動き出すか」を明確に決めることが不可欠なのです。

ターゲットを絞ることは、実は最高に「親切」なこと

ここまで読み進めても、「ターゲットを絞る」と聞くと、冷たく切り捨てるような印象を持つ方がいるかもしれません。
しかし、現実はその逆です。

情報の洪水の中で、お客様は「私のための場所」を探している

今、世の中にはモノも情報も溢れています。
お客様は、膨大な選択肢の中で「どこに行けばいいのか」迷っています。

そんな時、「うちは、安さと鮮度を求めるあなたのための店です」や「うちは、ゆったり買い物をしたいあなたのための店です」と旗を立ててあげることは、お客様の「探す手間」を省く優しさになります。

だからこそ、「私は、あなたのためにこんなお店でありたいと考えています」と伝えることは、とても誠実な態度です。

お客様は自分の価値観に合うかどうかを事前に判断でき、納得して足を運ぶことができます。
自分たちに合うお店をスムーズに見つけられることは、お客様にとっての大きな利益なのです。

価値観(スタンス)の発信が、価格競争に頼らないファンを作る

『自分に合うか』を判断するための情報(機能やスペック)を伝えることと同じくらい、お店としてどういう考えや価値観をもっているかを伝えるのも大事です。

今回紹介した、スーパーEのように、「従業員の幸せのために休みます」という価値観を伝えることは、単なる休業連絡以上の意味を持ちます。

その姿勢に共感したお客様は、「あのお店なら応援したい」「休み明けにまたあそこで買おう」というファンになります。
これは、他店より1円安いといったスペックの比較を超えた、強い繋がりです。

無理な勝負はしなくていい。あなたらしい「差別化」の第一歩

実は、かつての私も同じように悩んでいました。
自分のブランドを固める過程で、「どこに絞っていいのか」と迷い、正解が見えない時期がありました。

差別化とは「勝つこと」ではなく、自分たちの「立ち位置」を決めること

しかし、意を決して「誰に届けたいか」を明確にしたことで、大きな変化が起きました。
たとえば、発信をするとき、まるで目の前にお客様がいるような感覚になり、何をどう伝えればいいのか迷うことが驚くほど減ったのです。

「誰のために力になりたいのか」が見えているから、商品設計からコミュニケーション、顧客接点での魅せ方まで「軸」をもって選択できています。

差別化とは、競合を負かすことではなく、「私はここにいます。こういう想いで、あなたの役に立ちたいです」と、自分の立ち位置をはっきりさせることなのです。

勇気を持って間口を絞れば、理想のお客様との出会いが加速する

間口を絞る勇気を持つと、不思議と「本当に求めていたお客様」との出会いが増えていきます。
無理をして「安さ」や「便利さ」だけで勝負する必要はありません。

あなたが大切にしたい価値観を、大切にしたいお客様に向けて丁寧に届けていく。
それが、小さなお店が長く愛され続けるための、最も確実で優しい戦略なのです。

まとめ:あなたの「大切にしたいこと」が、一番の選ばれる理由になる

息子の何気ない「なんで?」から始まった今回の思考。

マーケティングとは、難しい理論ではなく、「誰を幸せにするか」という決意そのもの。
「誰でもいいから来てほしい」という曖昧な招待状を出すのをやめて、「あなたに来てほしい」と心を込めて伝えることです。

今回ご紹介したスーパーのように、マーケティングは何気なく過ごしている日常にたくさん散りばめられています。

「誰を幸せにするか」がまだ見つからない、と思ったときは、普段の生活で触れる様々なものについて、「これは誰のための商品なのだろうか」と考えてみると、ヒントがたくさんみつかるはずです。

そして、勇気をもって、「あなたのためのお店です」とターゲットを絞ると決めてみてください。
その勇気が、お客様にとっても、そしてあなた自身にとっても、心地よいビジネスの扉を開く鍵になります。

進む一歩を、見たくなる。

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この記事を書いた人
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おおとう なつみ

個人や少人数で営む小さなお店や中小企業のためのブランディングとマーケティング、それらに関わるデザイン支援をしています。目の前の小さな幸せのために人と人がつながることを大切にしながら「今」できる一歩をあきらめず、学級委員長のようにまっすぐ進む強い意志が特徴です。
広島県福山市在住、元気な恐竜2児の母。食べるの大好き!アイスとチョコパイとココアが心の支え。