第5章|「やりたい」を取り戻し、一歩前へ
がむしゃらに学んだ制作会社での日々
Web制作会社での勤務がはじまり、素人だった私はもうがむしゃらに、先輩たちから技術や知識を盗んだ。
編集を頼まれデザインデータを渡されると、細かい部分まで解剖して「なるほどなぁ~、こうやってこのボタンはつくっているのかぁ」なんて研究をした。
仕事をする中では、可能な限り新しいことに挑戦するように意識した。
型にはまったものではなくつくったことがないレイアウトにしたり、新しいプログラム言語やツールの学習、見た目のデザインだけではないシステマチックな分野にも興味を持ち学習した。
自分で調べ挑戦し、分からないことは積極的に聞きに行った。
10年以上キャリアのある先輩たちから吸収することは多く、新しいことに挑戦することを評価してもらえる環境でもあった。

特に、自社開発の求人検索システムを約4年間メインで担当させてもらっていたことで、「つかいやすいデザイン」にするためにはどうすればいいのか、ということを常に考えさせられた。
Webサイトに訪れる人が検索しやすい画面か、ページの読み込みはどうしたら速くなるのか、といったユーザー目線はもちろん、運営する更新者が更新しやすい画面設計に悩んだり、一緒に開発するメンバーが開発しやすいプログラムの書き方を考えたり。
関わるすべての人が「つかいやすい」こと。
それが、今でも大事にしていることで長く育て価値を生みだしていくために必要なことだと思っている。
そんな風に、日々学びも多く人間関係も良好な職場だったのだが、勤めて4年が過ぎた頃から次第に仕事が減り、経営が傾き出す。
私はその年に結婚し、妊娠を考えていた。
同じ頃、創業初期から会社を支えていた制作部長が独立のため退職したのをきっかけに、お世話になった先輩たちが続々と退職。
私も「ここでは子どもを産んで育てられないかもしれない」と先行きが不安になり、会社を辞める決意をする。
「つくる」から「育てる」のはじまり
退職後、印刷会社に就職する。新規事業開発を任されていたWebの部署だ。
ちょうどオウンドメディアを立ち上げ運営し、そこから収益を得る構想を描いていたタイミングで、開発からディレクションを一挙に任された。
上司と二人、小さくコツコツと育てた。
営業やマネジメント、役員経験のあった上司からは、経営やマーケティング、事業の進め方やこれからのキャリア形成で必要なこと、人間関係のあれこれに対する対処策など仕事をする上で大事なことの多くを教わった。
つくることしか考えてこなかった私にとって、メディア運営の仕事はありとあらゆる初めてとの出会いだった。
ライティングや写真撮影、SNS運用や広告運用、外部パートナーとのやり取りや進行管理、ECの開発や運営。
特に、計画し実行するという事業推進の方法は、つくって出すの繰り返ししかしてこなかった私の世界を大きくした。
上司が立てた事業計画と予算計画を元に運営していく中で、戦略の立て方や少ないリソースの配分の仕方、週や月単位でやるべきことを明確に計画し実行するという仕組みづくり、そして振り返り改善する方法を学んだ。
それは、自分のスケジュールだけを把握すれば良かった「つくり手」の立場から、事業全体を見通せる場所へと視座を上げてくれた。

運営1年半になる頃、長男を妊娠する。
しかし、運営2年が過ぎこのまま産休に、というタイミングで会社からの鶴の一声で育ててきたメディアのクローズが決定。
売上も少しずつついてきていた、まさにこれからというタイミングだった。
けれど、決定は覆らず、私はそのまま産休育休へと突入する。
育休と復職とアイデンティティクライシス
無事に長男を出産し、初めての子育てがはじまる。
育休中は、楽しい子育てとは程遠く、理想になれない自分に心底嫌気がさしていた。
アイデンティティクライシスとは、まさに当時の私の状態だ。
「子どものためにしなければ」「母親なんだからこうあらねば」
そんな「べき」「ねば」が思考を縛り付けて、自分が今日食べたいものさえも分からなくなっていた。

長男が1歳4か月の春に復職するも、産休前にメディアがクローズし窓際に追いやられた部署に復帰したため、毎日仕事がない状態だった。
長男は頻繁に病気になり、1年間ほとんど数えるほどしか会社へは行けず連日自宅での病児保育。
キャリアへの不安も大きくなる中、身動きも取れず、自分の意志で選べない日々に心がすり減っていった。
「このままでは私は腐ってしまう」
心の中の自分が叫んでいた。
どうにかしなければ。何かを変えなければ、と。
そして、半年という期間をかけて自分と本気で向き合う覚悟をした。
人生とキャリアをひとつずつ丁寧に振り返ると、少しずつ、好きだったことや楽しかったこと、大切にしていることが思い出され、言葉にすることができるようになった。
ものづくりをしているときの没入感、新しい挑戦をして一歩ずつ前に進むときのドキドキとワクワク、周りの人と心がつながったと感じられたときの喜び、大切な人やものを明日死んでも後悔しないように大切にしたいという強い気持ち。
何より、自分が自分のことを一番に信じる存在でありたいと思っていることに気がついた。
どんなにもがいて葛藤していても、「大丈夫」と背中を押せる自分でありたいんだ、と。

だから私は、自分と同じように目の前のことにひたむきな人の一番の応援者でありたいと願っている。
今できることをコツコツと実直に頑張っている人の力になりたい。
小さくても一歩ずつ力強く歩いている人を支えたい。
そして、その人たちのひたむきな気持ちをよりたくさんのお客様のもとへ届けるお手伝いがしたい。
そうすることで、人と人が出会い、お互いが満足や喜びという気持ちを交わしあう「つながり」をつくることができると信じているから。
そのために、「今」抱えている問題ときちんと向き合って、何を大切にしているのかをちゃんと言葉にする。
そして、それをどう伝えていくかを考える。
ひとりでは出来なくても、一緒なら出来る。
怖さも迷いも、超えるのが難しいと感じるたくさんの壁も。一緒だから乗り越えていける。そう思える存在でありたい。
それが今の私の「やりたい」ことだ。
